カポエイラ・ヘジョナウ

Capoeira Regional

カポエイラ・ヘジョナウ(Capoeira Regional)の名で定着した【Luta Regional Baiana】(ルタ・ヘジョナウ・バイアーナ)、つまり「バイーア地方格闘技」は1930年代に創始したカポエイラの近代スタイルのひとつです。

メストリ・ビンバ Mestre Bimba

メストリ・ビンバことマノエウ・ドス・ヘイス・マシャド(Manoel dos Reis Machado, 1900-1974)は、攻防の合理化を求めて古典的なカポエイラから多くの儀礼的要素を取り除き、より実戦的なスタイルを創始しました。犯罪の温床とされたストリートから室内へカポエイラの活動の場を移し、段階的な習得を設けて基本動作を凝縮した2人組みで行う型による練習方法も導入したのです。

Manoel dos Reis Machado, Mestre Bimba.

道場 Academia

カポエイラが刑法で禁止されていた時代にもかかわらず、1932年にサルヴァドール市で歴史初のカポエイラ道場を設立することが認められたメストリ・ビンバは、カポエイラの活動の場をストリートから室内へ移し、犯罪から格闘技へカポエイラのイメージ転換を成し遂げたのです。

ドキュメンタリー『Bahia』(I6)ワンシーンで、メリ・ンバ937に創設た「Cntro de Cultura Física Regional da Bahia」(バイーア地方体育センター)で撮影され、社会階級を乗り越えて白人と黒人が一緒にカポエイラを学んでいます。メストリ・ビンバご自身が率いる《ホーダ》(roda)と呼ばれるカポエイラの輪の集いが行われ、終盤には今や国際的な団体に成長した「ABADÁ-Capoeira」(アバダ・カポエイラ)*のグラン・メストリ・カミザ・ホーシャ(Grão Mestre Camisa Roxa, 1944-2013)の《ジョーゴ》(jogo)と呼ばれるカポエイラの演武が観られます。

*本サイトでは「カポエイラ・コンテンポラニア」(Capoeira Contemporânea)の部類に入ります。

段階的習得 Aprendizagem por etapas

最初にカポエイラの基本のステップである《ジンガ》(ginga)が教えられ、その後に8つの形と投げ技の型で基本動作を習得した生徒は卒業式(formatura)で《青スカーフ》(lenço azul)、実戦的な応用技を習得した卒業生には《赤スカーフ》、その次に対武器の訓練を経た者には《黄スカーフ》が与えられます。

Curso de Capoeira Regional, 1955.
Primeira Lição "Gingado"

段階的に技を習得していく方法は後にカポエイラ・コンテポラニア等の他のスタイルでも導入され、スカーフの代わりに紐(corda, cordão, cordel)を腰に巻く段級位制へと発展していきました。また、初心者に「四股名」ともいえる《アペリード》(apelido)が付けられる《バチザード》(batizado)と呼ばれる「洗礼式」もカポエイラ・ヘジョナウで初めて導入されました

型 Sequências

メストリ・ビンバの《8つの型》(oito sequências de Bimba)では、基本的な動き方・相対関係・自尊心・避け方(防御)などが伝えられ、《投げ技の型》(sequência de balões)では、倒れずにバランスを保つ技術が鍛えられます。体系化された練習方法はカポエイラ・ヘジョナウの大きな特徴のひとつです。

団体や先生によって型のやり方は異なりますが、上記の動画ではメストリ・ビンバの遺志を継ぐ息子のメストリ・ネネウ(Mestre Nenel)が率いる「Escola de Capoeira Filhos de Bimba」(ビンバの子らカポエリア学校)で教えられている8つの型解説されています。

音楽 Música

《シャランが(charanga)》とも呼ばれる「楽器隊」は最小限に抑えられ、他のスタイルでは3本のビリンバウ(berimbau)とパンデイロ(pandeiro)以外にもヘコヘコやアゴゴ、アタバキといった楽器も使われますが、ヘジョナウでは一本のビリンバウと両脇に2枚のパンデイロで編成されます。

歌はクアドラ(quadra)から始まり、コール&レスポンス形式賛歌の意味合いがあるローヴァソン(louvação)へと続き、その後にコヒード(corrido)が歌われるとジョーゴが始まります。参加者の手拍子とコーラスは全体の一体感を生み出します。

A charanga de Mestre Bimba.

代表的なトーキ(toque)、つまり「リズム」は【São Bento Grande da Regional】(サォン・ベント・グランジ・ダ・ヘジョナウ)ですが、カポエイラ・ヘジョナウの経典とされる名盤『Curso de Capoeira Regional』(JS Discos, 1955)では全7種類のトーキが収録され、型や技等の図解が掲載された手引き書も含まれました。

Curso de Capoeira Regional - Mestre Bimba,
JS Discos, 1969.

Lado A - São Bento Grande, Cavalaria, Banguela, Santa Maria, Iuna, Idalina, Amazonas.

  • サォン・ベント・グランジ・ダ・ヘジョナウ
    São Bento Grande da regional

  • イーノ・ダ・カポエイラ・ヘジョナウ
    Hino da capoeira da regional

紋章  Escudo

1835年にサルヴァドール市で勃発したマレーの反乱(Revolta dos Malês)で黒人イスラム教徒が見せ付けた猛威は後世に語り継がれ、預言者のひとりとされるソロモン王の印(selo de Salomão)の六芒星は力の象徴となり、カポエイラ・ヘジォナウの紋章のモチーフになったようです

紋章の中心には円に囲まれたヘジョナウの頭文字「R」が描かれ、六芒星の上の十字架は異文化と融和する適応力を表し、アフロ宗教とキリスト教のシンクレティズム(習合)を連想させます。

ドキュメンリー Mestre Bimba - A Capoeira Iluminada

メストリ・ビンバの生涯を追ったドキュメンタリー『Mestre Bimba - A Capoeira Iluminada』(Lumen Produções, 2005)のスピンオフ映像では、メストリ・ビンバの息子メストリ・ネネウの団体の練習風景やホーダの様子などが収録され、年齢に関係なく子供からお年寄りまでカポエイラ・ヘジョナウを楽しむ姿が観られます。

参考資料 Referências