カポエイラ・アンゴラ
Capoeira Angola
20世紀初頭まではスタイルを区別する特定の名称がなく、1930年代に実戦的なカポエイラ・ヘジョナウが出現したことに対し、古典的な要素を多く残したスタイルが【Capoeira Angola】(カポエイラ・アンゴラ)と呼ばれるようになりました。
オールドスクール Velha Guarda
近代カポエイラ・アンゴラの礎を築いたメストリ・パスチーニャ(Mestre Pastinha)ことヴィセンチ・フェへイラ・パスチーニャ(Vicente Ferreira Pastinha, 1889-1981)の名を語らずして、カポエイラ・アンゴラを語ることはできません。1941年にサルヴァドール市でカポエイラ・アンゴラ初の道場「Centro Esportivo de Capoeira Angola」(カポエイラ・アンゴラ・スポーツ・センター)を立ち上げ、室内での練習やユニフォームの導入などの近代的な要素を加えた一方で、儀礼的な動作などの古典要素も残しました。
1963年にフランス国立視聴覚研究所(INA)が制作したドキュメンタリー『La Capoeira』で、サルヴァドール市のイタプアン灯台付近のビーチで、ビリンバウ(berimbau)を弾いているメストリ・パスチーニャ(一番背が低い方)と弟子等がカポエイラ・アンゴラを披露している様子が観られます。[1]
現在はメストリ・パスチンニャの系統が主流ですが、同じくサルヴァドール市で活躍したメストリ・ワウデマル(Mestre Waldemar, 1916-1990)やメストリ・コブリーニャ・ヴェルジ(Mestre Cobrinha Verde, 1912-1983)、メストリ・ガト(Mestre Gato, 1930-2002)、メストリ・カンジキーニャ(Mestre Canjiquinha, 1925-1994)などの大御所によって、多様なカポエイラ・アンゴラが今日まで伝承されました。上記の写真で唯一健在なのが、左から3番目のメストリ・ジョアン・グランジ(Mestre João Grande)で、一番右のメストリ・ジョアン・ピケノ(Mestre João Pequeno, 1917-2011)と同じく、メストリ・パスチーニャの弟子です。
特徴 Características
カポエイラ・アンゴラの中でも、グループによって異なる部分が多いですが、動き・音楽・ユニフォームの大まかな特徴を紹介します。
動き Movimentação
一般的にカポエイラ・アンゴラはゆっくりで、低い姿勢の動きが多いといわれてますが、実際には緩急をつけて鋭い攻撃をしたり、高い姿勢の動きもよく使われたりします。また、儀礼的な【chamada】(シャマーダ)などの特有の動作で、相手を惑わす【mandinga】(マンジンガ)または欺く巧妙さの【malícia】(マリシア)などが試されます。
Barracão de Mestre Waldemar, chamada de costas. Salvador, ca. 1955.[3]
音楽 Música
現在のバテリア(bateria)、すなわち「楽器隊」は3本のビリンバウ(berimbau)、2枚のパンデイロ(pandeiro)、アタバキ(atabaque)、ヘコヘコ(reco-reco)とアゴゴ(agogô)で編成されます。ビリンバウは音程が低・中・高の3種類が使われ、それぞれグンガ(gunga)・メジオ(médio )・ヴィオラ(viola)、あるいはベハ・ボイ(berra boi)・グンガ(gunga)・ヴィオラ(viola)と呼ばれ、低音のグンガまたはベハ・ボイは通常メストリか指導者が担当し、参加者が囲むホーダ(roda)と呼ばれる「輪」を取り仕切ります。
ホーダの始まりには必ずラダイーニャ(ladainha)が歌われ、次に賛歌の意味合いを持つロウバサォン(louvação)でコーラスが入り、コヒード(corrido)に移ると、カポエイラの演武であるジョーゴ(jogo)が始まります。即興で歌が作られることもあり、歌詞を通してさまざまなメッセ―ジが伝えられます。
カポエイラ・アンゴラではビリンバウで様々なトーキ(toque)、すなわち「リズム」が使い分けられ、グループによって呼び方が異なりますが、基本的には次の3つが使われます。[4][5][6] 音源はホイッスルが特徴的なメストリ・カイサラ(Mestre Caiçara, 1924-1997)のLP盤『Academia de Capoeira Angola São Jorge dos Irmãos Unidos do Mestre Caiçara』(Copacabana, 1969)です。[7]
アンゴラ
Angola
サン・ベント・ピケノ
São Bento Pequeno
サン・ベント・グランジ
São Bento Grande
ユニフォーム Uniforme
カポエイラ・アンゴラの特徴とされる黄色と黒のカラーは、メストリ・パスチーニャがサポーターだった地元のサッカーチーム「Esporte Clube Ypiranga」(イピランガ・スポーツ・クラブ)のカラーを真似たと言われています。なお、メストリ・ジョアン・グランジの「Capoeira Angola Center」のように白を正装とするグループやメストリ・ルア・ジ・ボボー(Mestre Lua de Bobó)率いる「Grupo de Capoeira Angola Menino de Arembepe」などでは青と白のユニフォームが使われます。
Centro Esportivo de Capoeira Angola, Salvador, 1960s.
また、他のスタイルと比べたとき、《靴》が必ず使われることが最大の特徴といえるかもしれません。アンゴラで靴が使われる理由のひとつとして、「昔は黒人奴隷が靴を履くことが許されなかったから」と聞いたことがありますが、これは西洋的な価値観での観点のため、個人的にはあまり納得していません。しかし、昔は靴を履いていなかった・買えなかった者は"ならず者"(vadio)と見なされ、身だしなみを整えて靴もきちんと履くことで問題を避ける当時の知恵である可能性もあります。
衰退と復活 Declínio e Recuperação
20世紀後半にカポエイラ・アンゴラは徐々に衰退して行きましたが、メストリ・モライス(Mestre Moraes)は1980年にGCAP(ジェカッピ)こと「Grupo de Capoeira Angola Pelourinho」を立ち上げ、リオデジャネイロ市とサルヴァドール市で精力的に活動し、カポエイラ・アンゴラを途絶から救った立役者だったと言っても過言ではありません。
カポエイラ・アンゴラの名盤『Capoeira Angola from Salvador, Brazil』(Smithsonian Folkways Recordings, 1996)のジャケット写真には、当時のGCAPの3世代のメストリが写っています。現在はそれぞれの団体を立ち上げて活動しています。左よりMestre Manoel (Ypiranda de Pastinha)、Mestre Poloca (Nzinga)、Mestre Moraes (GCAP)、Mestre João Grande (Capoeira Angola Center)、Mestre Cobra Mansa (FICA)。Ypiranga de Pastinha 以外のグループは日本にも支部があり、日本人のメストリ(師範)やコントラメストリ(準師範)が活躍しています。もちろん収録内容も素晴らしく、歌詞カードには歌だけでなく、カポエイラやGCAPの歴史なども解説されています(英語・ポルトガル語のPDFファイルはこちら)。
参考資料 Referências
Capoeira Angola Center of Mestre João Grande http://www.joaogrande.org/
Esporte Clube Ypiranga http://www.esporteclubeypiranga.com.br/
Grupo Nzinga de Capoeira Angola http://nzinga.org.br/
INA フランス立視聴研究所 Capoeira, from one world to another
Velhos Mestres http://velhosmestres.com
脚注 Notas
INAフランス立視聴研究所 LA CAPOEIRA, Leses de l'exploit - 15/05/1963 - 05min11s
Biblioteca Nacional Digital: Revista Manchete, edição 1551, 9 de janeiro de 1982, pp. 71-77.
Fundação Pierre Verger www.pierreverger.org
Rego, Waldeloir. Capoeira Angola: ensaio sócio-etnográfico. Salvador: Itapoan, 1968, pp.58-62.
Carneiro, Édson. Cadernos de Folclore - Capoeira. Rio de Janeiro: FUNARTE, 2a ed., 1977, p.9.
Shaffer, Kay. O Berimbau-de-barriga e seus toques. Rio de Janeiro: FUNARTE, 1977, pp.37, 45-55.
velhosmestres.com - Antônio Conceição Moraes - Mestre Caiçara
Capoeira Angola from Salvadorzil - GCAP. Smithsonian Folkways Recordings, 1996.